ラーメンBLOG -R18-

八戸近辺あっさり醤油味専門ラーメンブログ。

第50回『R18アワード 2017 第1位』









男はかつて、
『カリスマ』と呼ばれていた。








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突然の通り雨だった。

ずぶ濡れになりながら、
なんとかギリギリで電車に乗り込んだ。

車両には目の前に若い女性が1人だけ。
もう遅い時間だからか、人が少ない。

もう雨はあがったようだ。
本当に一瞬だった。
これが昼なら、虹でも出ていただろうか。
虹なんて、”あの日” 見た以来、見ていない。



窓から見える東京の灯りと、
電車の音だけが男を支配していた。






男は数年前、
全てを捨てるためにこの東京にやってきた。

人はわがままで、卑怯者で、憶病者で、
そして嘘つきだ。

その嘘の辻褄合わせから逃げるように。
かつて呼ばれていた、
『カリスマ』の名前からも逃げるように。






窓から見える街は、
夜遅い時間だというのにすごく明るい。
こんなにも明るくて、賑やかなのに、
こんなにも虚しくて、寂しいのだ。
男も、この目の前の女性も、
今日も誰かを疑いながら、
今日も誰かを信じながら生きている。
そんな不思議を抱えながら、
この東京という街は息をしている。


なんでもない日々は続いていく。









ある日のお昼時、公園で小さな子どもが
『ママ、今日はラーメンがいい!』と
駄々をこねている。
東京にも、ふと、穏やかな風が吹く
場所と、時間が存在する。
たまには公園なんかにきてのんびり
時間を過ごすのも悪くない。

どうやら、無事にその家族の昼食は
ラーメンに決まったようだ。

若き日に心に誓った鮮やかな夢は、
歳と共にゆっくりと、白く色褪せながら、
老いていく。

また、通り雨だ。
最近通り雨が多い。

親子が急いで公園から出る。
帰り際、こちらに手を振ってくれた
小さな子どもの笑顔が
少しだけ、男の心に色をくれた。



いつからか少年のような笑顔は忘れ、
男は家を出るときには必ず、
クローゼットから着ぐるみを引っ張りだし
戯けた愉快なキャラクターを
演じるようになっていた。


その中に、
汗だくのおじさんがいることなど、
誰も知らなくていい。


こんなにも
着ぐるみショーが得意じゃなかったのなら、
唯一愛したあの人は失わなかったのだろうか。
ふと、考えてみる。

どうせまた通り雨だ。
すぐ止むだろう。。
静かに打たれながら帰ろう。
君を忘れるために、雨も必要かもしれない。



帰り道、思いっきり躓いた。
地面に目をやると、大きな段差だ。
水溜りに打ち付ける雨粒をしばらく眺めてみた。
時間がスローモーションのように感じる。

雨粒が落ちてから、
また次の雨粒が落ちるまでの間隔が徐々に
大きくなっていく。
通り雨が嘘のようにカラッと晴れて、
空にはやけに大きな、虹が浮かんでいた。

水滴を、まるで宝石のように
夕焼けがキラキラに照らし、
そこに大きな虹。
あの人と、最後に虹を見た
”あの日” とリンクする。



答えのない数式だと知りながら、
曖昧な空模様に紛れて君を抱きしめた、
あの日。




男は何か思い立ったかのように、
足取りが早くなった。



向かう場所はひとつだ。












大量の荷物を抱え、
静かに新幹線から降りる。

すると、少し肌寒い風と
見慣れた街の灯が、瞳に揺れる。
駅ではキャッチーなメロディが流れ、
男はしばらくそこに立ち尽くす。



もしも、あの日
全く別の選択をしていたなら。
今頃どこの駅にたどり着き、
どんな気持ちで今日の夜を迎えていたのだろう。

それを知る術はない。
だから面白い。





数年ぶりに歩くふるさとの地は、
男の魂を熱くさせる。
忘れ物はきっと見つかる。
まだ、戦える戦士だ。
だって男は
『カリスマラーメンブロガー』なのだから。



どうやら、目的地に着いたようだ
男は、ドアの前で、大きく深呼吸をした。


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『大将、ラーメンひとつ』

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第1位  らーめん処遊々亭  
99にょめにょめ
ラーメン  400円


一心不乱に喰らう。
優しい煮干しの香りの中に、強烈な旨味。
麺は細縮れ麺。
スープを纏いながら、口へと吸い込まれていく。
息をつく暇も、考える暇も与えてくれない。
気がついたときには全てはお腹の中。
そうだ。これだ。





店をあとにする。





ありがとう。
そして、さようなら。





だって、同じ虹に逢うことは出来ないから。








男はそっと呟いた。




にょめにょめにょめにょめ